電気通信大学 情報理工学部 情報システム学研究科 先端分散システム研究室 田中ラボ

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生体ネットワーク

ひとことでネットワークと言っても、抽象的なレベルのネットワークもあれば、アドホック・センサネットワークのように無線によるネットワークもあります。真性粘菌(モジホコリカビ)は、多核で単細胞のアメーバ状態となりますが、このとき大規模なネットワークを形成し、意外なほどスマートな行動を示す真性粘菌ことが知られています。このスマートな情報処理や環境適応能力を解明するために過去数十年にわたり様々な実験研究が行われてきており、相当の知見が蓄積されてきています。とはいうものの、ある側面については殆んど未開拓な状況でもあります。そして、現在は計測手段の進歩によってネットワークのダイナミクスに関する理解が着実に進みつつある状況です。

これまで粘菌が多くの研究者を惹きつけてきた理由は、これがアメーバ状(変形体)となり自由に移動する動物的側面と、子実体となり胞子を飛散させる植物的側面を共存させていることです。この子実体になるための条件に関し、これまでの研究はある程度の理解を与えてくれます。ところが、子実体となる直前の変形体の振る舞い、特にネットワークのダイナミクスに関しては殆んど理解が得られていないと考えられます。

本研究室はこの問題に対してオリジナルな研究を進めています。われわれは恒湿恒温槽とビデオによる長時間記録によりシステマティックな対照実験を積み重ねてきました。実験真性粘菌の子実体形成直前に生じるネットワークのダイナミクスについて新らしい知見に到達しました。粘菌にとって子実体形成は生存を賭けた一大イベントであるので、われわれの得た知見は、粘菌の知られざるいま一つの「知恵」を明らかにするものと考えられます。

関連する研究発表:

  1. Yuta Kondo and Hisa-Aki Tanaka: “Do Amoebae Climb Before Fly ? ―Environmental Adaptation Ability in the True Slime Mold before Sporulation―,” Dynamics Days Asia Pacific 5 (DDAP5) The 5th International Conference on Nonlinear Science,(September 9 – 12, 2008,Nara, Japan).
  2. 近藤悠太,田中久陽:「真性粘菌の子実体形成前におけるネットワークダイナミクスについての実験検証」, 電子情報通信学会2008ソサイエティ大会, p. 33(9月16–19日開催,会場:明治大学 生田キャンパス).
  3. Yuta Kondo and Hisa-Aki Tanaka: “Primitive Intelligence in the True Slime Mold before Sporulation,” 日本ソフトウェア科学会 JWEIN08,pp. 47-48.(2008年8月29–31日,東工大)
  4. 田中久陽,近藤悠太:「アドホックネットワークから見た生物のプリミティブな環境適応能力
    –最近の研究動向–」, 電子情報通信学会 アドホックネットワーク研究会(AN)(5月15・16開催,電通大) (2008-5).