この応募論文は著者の一人である田中が二十代の終わりから1年強程の間に行なった理論研究をまとめたものです.その研究は田中が中心になり行ったものですが,共著者の先生方,また貴重なコメントを賜りました皆様と査読者の方々なくしてはこのような成果に到達できなかったことでしょう.この場をお借りして重ねてお礼申し上げます.

この研究は,当時急速に進展していた同期現象の解明の流れにおいて,工学(特に電気通信分野)からの一つの貢献として価値があるものと考えられます.出版されて10年になりますが,最近においても引用が行われていることは著者の望外の幸いです.

どのような研究にも光と影の側面があるのではないでしょうか.この研究もまた例外ではないようです.以上の論文の9割方は,田中がUCバークレーに滞在中に書き上げたものですが,(若気の至りをお許しいただいたとして)その執筆はとにかく楽しいものでした.おそらくは著者の力ではなく,カリフォルニアの陽光のお陰だったのではないでしょうか?

反面,今でも思い出されますのは論文が完成する最終段階の再計算の数日です.これはクリスマスイヴの晩にようやく終息したのですが,当時の私の居室はPCも満足な利用が容易でなく,理論計算を全て手計算で行っておりました.また,もちろんあちらのクリスマスイヴの晩に大学で仕事をする人などいるはずもなく,ただ一人机に向かっていた10年前の私に「君の努力はムダではなかったよ」と今回の受賞が伝えてくれたような気がしております. 電気通信普及財団賞(テレコムシステム技術賞)にお礼申し上げます.