FAQ

「大量生産,大量消費」,「スピード」,「効率」という「量」を夢中に追い求めてきたこれまでの工学技術は今や曲り角に来ているのではないでしょうか?その「曲り角」は,地球温暖化,化石燃料や電子機器に用いられるレアメタルの枯渇という形で徐々に,しかしはっきりとした形で現れてきています.この「曲り角」は,突然やってきたものでしょうか?いや,そうではなさそうです.ヨーロッパでは中世から森を切り拓き街を形成していった時点で既にそのルーツがあり,現れるべくして現れてきたものといえるのではないでしょうか.

電気工学,電子通信工学,情報科学(コンピューターサイエンス),非線形物理,応用数理をバックグラウンドとする本研究室は,このような状況から目をそらさず,悲観も楽観もせず,何をすべきか,何が出来るかを冷静に見きわめ,着実に取り組んでいます.

田中研究室は「分散システム」の可能性を期待しています.われわれの考える「分散システム」は現時点,例えば,インターネット,P2P,アドホック・センサネットワーク,ユビキタスデバイスを含みますが,このような技術の一つの特徴は,「スピード」や「効率」を最優先としない反面,必要に応じた役割り,機能を小さな端末が分散して,インフラに膨大な投資も必要とせず,スマートに実現することです.皮肉なことに,このような技術は,米軍の軍事研究がその一端になっているのも事実ですが・・・・.

例えば,あなたが隣の建物にいる人とメールをやりとりしたり,ちょっとした会話をしたいとします.現状では,LANにPCを接続するか,「電話」するはずです.これはLANや電話線,あるいは光ファイバーというインフラに相応の投資をした結果可能になるものです.ところが,携帯電話が数台あり,これが互いに無線で(基地局を介さず)直接に中継したとすればどうでしょうか?携帯数台という徴かなインフラによって必要な通信が実現されるはずです.現時点でこれよりローコストな通信手段はあるでしょうか?おそらく考えられないでしょう.
(手旗信号,糸電話,伝書鳩,テレパシー等は除きます)

このような発想がインターネットやアドホック・センサネットの原点にあります.ところが,このような「分散」ネットワークで,何がどの程度できるのかという素朴な疑問は,実はそれ程容易に答えることができないのが現状です.

その最も原理的な理由の一つは,「どのような分散ネットワーク(分散システム)によって何がどの程度できるか」をきちんと(=数学や物理のコトバにより)説明できる段階に至っていないことと考えられます.もちろん応用研究,商用化,新しいアプリケーションの開発は着実に進んでいるのですが・・・・.実際に作ってみて,あるいはシミュレーションを行なって,初めてその性能が把握されるという状況です.

田中研究室は,このような現状を直視して,分散ネットワークにおいて,
(i)その応用,商用化,アプリの開発の動向を重視し(→企業との共同研究),その一方で,
(ii)その内に潜んでいる「何がどの程度出来るか」という基本的なメカニズムの解明を着実に行なう研究を行なっています.
(→ユビキタス,アドホック・センサネットワークの研究
このような分散システムの本質に関する研究はバイオサイエンス,特に生体内の通信とネットワークの研究と密接にオーバーラップしており,当研究室は北大の上田教授,中垣教授のチームの御協力により,「生きた」巨大ネットワーク(=真性粘菌)に潜むスマートな通信,情報処理メカニズムを解き明かす研究も行なっています.
(→生体ネットワークの研究

また,以上の通信ネットワーク,生体ネットワークの両者において重要であるシンクロニゼーション(リズム現象,タイミングの同期メカニズム)に関しても研究を行ない,既に多数の成果,特許等が得られています.
(→シンクロニゼーション(リズム現象,タイミング同期)の研究

このように,田中研究室は,ちょっと大げさですが上記の技術の「曲り角」を直視し,また人類の将来を担う新しい技術やこれを支えるサイエンスを開拓することをミッションとしています.